〔1)債権者の保護
財務会計が測定対象とする経済活動の担い手である企業は,その形態面から個人企業と会社に大別されます。
会社にはさらに,合名会社・合資会社・有限会社・株式会社という4つの種類があります。 面法は,企業の形態がこのいずれであるかにかかわらず,すべての企業を「商人」として把握し,これらの商
人に対し会計帳簿と貸借対照表の作成義務を課しています。しかし商人のうちでもとくに株式会社については,その会計をよりいっそケ詳しく規制しています。これは株式会社がもっている特徴のゆえに,深刻な利害対立を生じるおそれがあるからです。
株式会社がもっている特徴のうち,とくに重要なものは,①企業の所有権を表す株式および株券の制度と,②出,資者たる株主の有限責任の制度です。この2つの特徴のおかげで,株式会社は経済活動に必要な資本の調達を有利に進めることができ,こんにちの経済社会で最も繁栄しか企業形態になっています。このことは個人企業が大企業へ発展していく過程を考えれば明らかです。
こんにち世界的に有名な巨大企業も,その大部分は,事業生みずからが自にの資金を出資し,みずからか経営を行う個人企業として開始されています。当初,企業規模の拡大に必要な資金は,刊益の再投資や血縁者・知人などからの出資によってまかなわれるとともに銀行などの金融機関からの什人金によって調達されます。しかしこれらの方法で集められる資金額にはおのずから限界があり,多くの資金を調達しようとすれば,事業主とは人的関係のない人々からも出資を求めなければならなくなります。そのような資金調達を可能にしたのが株式会社の制度です。
株式会社は,企業の所有権を分割して株式とし,その販売によって資介を調達するとともに,株式を購入して休主になった者に対して,
利芥を分配するといヶ方式を採用します。このため,独自に事業を開始する能力や十分な資金力をもたないような人々で醜出資を通じて企業の利益の分配に参加できるよ引・こなります。しかも出資者にとっては,万一,事米が失敗して会社が倒産した場合でも自己の出資額を放棄するだけで足り,個人財産を拠出Iしてまで会社の債務を介・済する必要がないという有限責任制度が採用されたため,安心して出資をすることができます。このため株式会社の制度は,人々が余剰
資金を運用する新しい対象として広く往及するようになり,多数の出資者の零細な資令が企業へ集中されて,企業の飛躍的な成長を可能にしたのです。
しかし株式会社の資本調達方式は,関係者の間に利害対立の可能性を生み出すことになりました。その1つは,株すの有限責任制度に起囚する,債権者と株主の間の利害対立です。有限責任制度は,会社が撰産した場合でも,債権者は株主の個人財産をあてにすることはできず,会社の財産からだけしか債権の回収をはがれないことを意味します。したがってもし株主。が相談して,会社の財産を自分たちだけで分配してしまうようなことがあれば,債権者の権利は著しく害されます。
このような会社の財産の小当な流出に対して債権者の権利を保護するには,まず会社の財産の総額を特定したうえで,これを分配不能な部分と分配可能な部分に峻別し,配当金や役員賞l-の支払のように会社の財産の社外流出,を伴うような利益処分は,分配可能な部分の範囲内でのみ行うように制限を設けなければなりません。
これを規定したのが商法の配当制限です。この制限を具体的に運用するため,商法は資産および負債の範囲と評価の方法を示して純資産額を計算できるようにしたうえで,純資産額のうちの所定部分は分配不可能であると規定しています(第290条と第293粂ノ5)。したがって商法による会計の1つの機能は,配当制限を通じて,債権者と株主の利害調整をはかることにあるといえます。配当削限の詳しい仕組みは,第9章で解説します。
(2)株主の保護
株式会社が生み出す可能性があるもう工つの利害対立は,経営者と株主の問の関係です。これは株式と株券の制度によって,非常に多くの人々から資金調達が行われ,有利に進めることができ,こんにちの経済社会でen.
も繁栄した企業形態になっています。このことは個人企業が大企業へ発展していく過程を考えれば明らかです。
こんにち世界的に有名な巨大企業も,その大部分は,事業主みずからが自己の資令を出資,みずからか経営を行う個人企業として開始されています。当初,企業規模の拡大に必要な資金は,利益の再投資や血縁者・知人などからの出資によってまかなわれるとともら銀行などの金融機関からの借入金によって調達されます。しかしこれらの方法で集められる資金額にはおのずから限界があり,多くの資金を調達しようとすれば,事業主とは人的関係のない人々からも出資を求めなければならなくなります。そのような資金調達を可能にしたのが株式会什の制度です。
株式会社は,企業の所有権を分割して株式と七,その販売によって資金を調達するとともに,株式を購入して株十になった者に対して,利益を分配するという方式を採用します。このため,独自に事業を開始する能力や十分な資金力をもたないような人々で乱出資を通じて企業の利益の分配に参加できるよ引・こなります。しかも出資者にとっては,万一,事業が失敗して会社が倒産した場合でも自己の出資額を放棄するだけで足り,個人財産を拠出してまで会社の債務を弁済する必要がないという有限責任制度が採川されたため,安心して出資をすることができます。このため株式会社の制皮は,人々が余剰
資金を運川する新しい対象として広く普及するようになり,多数の出資者の零細な資金が企業へ集中されて,
企業の飛躍的な成長を可能にしたのです。
しかし株式会社の資本調達方式は,関係者の間に利害対立の可能性を生み山すことになりました。その1つは,株主の有限責任制度に起因する,債権者と株十。の間の利害対立です。有限責任m度は,会礼が倒産した場合でも,債権者は株主の個人財産をあてにすることはできず,会社の財産からだけしか債権の回収をはがれないことを意[床します。したがってもし株主が相談して,会社の財産を自分たちだけで分配してしまうようなことがあれば,債権者の権利は著しく害されます。
このような会社の財産の不当な流出に対して債権者の権利を保護するには,まず会社の財産の総額を特定したうえで,これを分配不能な部分と分配可能な部分に峻別し,配当令や役員賞与の支払のよ引こ会社の財産の社外流出lを伴うような利益処分は,分配可能な部分の範囲内でのみ行うように制限を設けなければなりません。
これを規定したのが商法の配当制限です。この制限を具体的に運用するため,商法は資産および負債の範囲と評価の方法を示して純資産額を計算できるようにしたうえで,純資産額のうちの所定部分は分配不可能であると規定しています(第2%条と第293条ノ5)。したがって商法による会計の1つの機能は,配当制限を通じて,債権者と株主の利害調整をはかることにあるといえます。配当制限の詳しい仕組みは,第9章で解説します。
(2)株主の保護
株式会社が生み出す可能性があるもう1つの利害対立は,経営=者と株主の間の関係です。これは株式と株券の制度によって,非常に多くの人々から資金調達が行われ,出資者たる株主の人数が増えことに原因があります。これにより株主の全員が協力して会社の経営にあたることが不可能になり,経営業務の執行を担当する一部の株主と,その他の株主の間で分化が進みました。
この場合,経営業務を担当する株主といえど仏多数決で会社を支配できるほどの比率の株式を保有しているわけではありません。またこれとは別に,大企業が競争に勝ち残っていくために株主以外からも専門的な経営能力をもった人材が経営者に登用されることがよくあります。このような現象は「所有と経営の分離」として知られていますが,大規模な株式会社ほど,この現象が生じやすいのです。
このような状況を前提として,商法は株式会社の機構を次真の図のように定めています。株主によって構成される「株主総会」は,最高の意思決定機関です。しかし株主総会を頻繁に開催することは能率的ではありませんし,大部分の株主は経営問題への関心やそれを処理する能力をもっていません。そこで株主総会は,会社の業務執行を決定する者として取締役を選任し,彼らが構成する「取締役会」にゆだねます。そして取締役会で選任された「代表取締役」が,取締役会での決定に基づき,会什を代表して会社の業務を執行するのです。会社の経営者とよばれるのは,代衣取締役を中心としたこれらの取締役です。このようにして株主。は,自己が出資した財産を取締役に任せることになりますから,取締役を監督させるために,株主総会で監査役を選任して監査にあたらせています。なお2003年以降は,監査役を廃止する代わりに,取締役会の内部に監査・人事・報酬の3つの委員会を設ける委員会等設置会社とよばれるアメリカ型の機構の採用を選択できるようになりました。そのような会社では,取締役会が「執行役」を選出して業務の執行を任せるとともに,執行役の監秤にあたります。
会社がどちらの機構を採用するかにかかわらず,経営者は株主の資金を預かった受託者ですから,それを誠実に管理し,株主の最人利益に合致するよう自己の令能力を投入して経営活動を行うべき責任を負うことになります。この責任は受託責任とよばれます。
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しかし経営者か受託責任を常に誠実に遂行するとは限らないことから,株主との問で利害が対立する可能性があります。経営者は株主の利益よりも自己の個人的利益を優先させるかもしれないのです。たとえば経営者は,自この役得として過大な出張旅費や交際費を支出したり,会社の資産を私物化することがあります。また,自己の労力や精神的負担を惜しむあまり,株主にとって最善の投資プロジェクトを選択しないかもしれません。新規事業の失敗をおそれて,新しい投資機会に挑枝せず。
得られたはずの利益を逸失する場合などがその例です。 これら若干の例からも明らかなとおり,所有と経営が分離しか大規模な株式会社にあっては,株主が経営者の誠実性に関して不信をいだく可能性が常に存往し,株主と維営者の即こは利害の対立が生じるおそれが十分にあります。この利丼対立を解消する1つの仕組みが,経営者から株主への会計報告です。
経営者には任期がありますから,再選をめざす経営者は株主からのイ言頼を得て自己の地位を確保するため,自己が株主の利益に合致するよう誠実に行動したことを株主に納得してもらわなければなりません。このため経営者は,株主から預かっている資金の管理・運用の状況と,その結果としての経営成績を自発的に報告する動機をもっています。他方,株主は経営者による資金管理の誠実性と企業経営の能力に注目しており,その判断のための基礎として,会計報告を必要とします。
この関係を前提として,商法は取締役が貸借対照表や損益計算書などの書類を作成し,監査役の監査報告書とともに株主総会へ提出して,報告したり承認を受けるべきことを規定しています。経営者が株主に対して会計報告を行うべき責任を会計責任といいます。
したがって商法の規定に基づいて行われる会計のもう1つの役割は,取締役が遂行した資金の調達と運用の現状,およびそれを利用して行われた経営成績に関する会計報告書を作成して株主へ伝達することにあります。これにより株主は,経営者の誠実性や経営能力を評価したうえで,株主総会での議決権行使を通じて,自己の財産や権利を保全できるようになるのです。
このように商法に基づく会計は,企業をめぐる主要な利害関係者である経営者・株主一債権者の間で,潜在的に存在する相互不信や利害対立関係を解消したり調整するために役立てられています。この側面で財務会計が果たす役割を,利害調整機能といいます。
Create 2013/11/05
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