■躁鬱病への対応

自分の部下や部内に「躁鬱病」と診断された場合の対処はどうすべきだろうか?「鬱病」と「躁鬱病」は大きく異なり、対応を誤ると本人の為にならないばかりか職場にも悪影響を及ぼす重大な結果を招きます。躁鬱病を理解して、適切な対応を行ないましょう。

●躁鬱(そううつ)病とは・・・(双極制性障害とは・・・)

医学的には「気分障害」というジャンルに入ります。うつ病と同じジャンルですが、うつ病とは全く違う病気です。普通のうつ病は、「単極性うつ病」(うつの症状のみ)。そううつ病は、そう(ハイ状態)とうつ(ロー状態)を繰り返す病気です。うつの危険性は自殺ですし、そうの危険性は他人へ危害を加える行為です。最近は「双極性障害」と呼ばれます。俗に言う、「気分が変わりやすい」「気まぐれ」程度のものとは全く異なり、普通の人の感情の振れ-1~+1くらいだとしたら、躁うつ病の感情の振れ幅は、人にもよりますが、その数十倍以上にも換算されるでしょう。

 簡単に言えば、躁の時にガソリンを使い果たし、どうにもならなくなって止まってしまう(うつ状態になる)・・・という感じです。

 躁の時は、自分では調子がいいと思うため、自分ではコントロールできず、病気だという認識(病識)もないので、治療や入院も拒否しがちです。そして、うつになると、躁の時のことを思い出して自己嫌悪に陥ったり、人により貧困妄想などが出て将来を悲観し、ひどい時は自殺を図ったりします。

周りから見れば、「意志が弱い」「怠け者」のように見えますが、それは全く違い、本人の責任ではありません。なぜなら、ストレスなどが主な原因ではなく(きっかけにはなりますが)、脳内の神経伝達の異常によって引き起こされる病気だからです。ですから、薬物治療が主になります。

躁とうつを繰り返すといっても、境目がはっきりしてる人とそうでない人がいますし、症状や周期も人によっていろいろです。躁とうつの期間もさまざまですが、一般に躁の方が短いようです。

原因は、何らかの遺伝的要素が関与していると言われていますが、同病の親を持った子供の発病の確率は2~10%くらい(つまり9割以上は発病しない)で、いわゆる遺伝病ではありません。「遺伝する体質」がこれくらいということです。糖尿病などと同じです。それに加え、ストレスなどの環境要因が加わって発症するのではと考えられています。

 

●躁鬱病の症状

うつ病と躁うつ病が決定的に違うのが、「躁(そう)」の部分がある事です。もちろん、原因も違いますが・・・。ずっと「躁」の人でも、「躁病」というのはまれで、多くは「躁うつ病」の「躁」の部分が長引いていたり、うつが目立たなかったりするものです。

後述しますが、躁うつ病には、1型と2型の二つがあります。1型の方が躁が激しいものです。この躁の強さによって、双極1型、双極2型という分類をされます(アメリカ精神医学会の分類(DSM-IV)による)。

・1型の躁

1型の躁は、大体の場合、非常に気分がよく、やる気もあり、自分では絶好調のつもりで新しいことを始めます(多幸感がなく、イライラの強い不機嫌な躁もあります)。
しかし、すぐ気が変わり、いろいろなものに手をつけるので、実際の仕事ははかどりません。また、ささいなことで激怒します。
何週間も不眠不休で行動したり、ひどい時には、多大な借金をしての起業や事業拡大、何百万円ものむだな買物・ギャンブルをしたり、激怒による暴力や性的逸脱行為をしたりします。

また、人によっては、「自分は選ばれた特別な人間だ」とか、「自分はすごい超能力がある」「選挙に出る」などの誇大妄想、幻覚・幻聴などが出たりします。
本人は気分が高揚しているので、病識(自分が病気だという意識)は全くなく、心配して治療を受けさせようとする家族に対して反感を持ちます。躁の時のことをきれいに忘れてしまう人もおり、家族は振り回されっぱなしで、精神的にも肉体的にも大変疲れてしまいます。

・2型の躁

2型の躁は社会生活を営めるくらいの躁(軽躁)で、激しく怒ったり妄想が出たりはしません。眠らなくても平気で、気分は陽気、まわりとも活発に交流し、一見何も問題ないように見えます。が、「軽躁」は立派な病的状態なので、注意深く見ると、「ふだんの本人」よりも少し違った感じがします。
本人も、「スイッチが入って陽気になっている」というような状態で、単純に楽しいわけでは決してなく、イライラが募ったり疲れがたまったりしています。はた目からは楽しそうに見えても、実はかなりのプレッシャーがかかり、無理をしています。

1型ほどではなくても、新しいことを始めたり、ほしいものを次々と買ったり、目移りしたり、話が飛んだり、衝動的だったりします。被害がないから、元気だからとそのままにしておくと、いずれガス欠になってうつ状態になりますから、早めの治療が必要です。また、気分循環性障害というのがあり、これは躁もうつも軽いものです。
しかしその状態が2年以上続き、慢性状態となっています。1型や2型に移行することもまれではないので、治療が必要です。

・うつ状態

さて、うつ状態はどうかというと、大体うつ病と同じようなものです。何週間も、毎日、ゆううつな気分が続きます。
朝が一番ゆううつで、夜になってくると軽くなるのが普通です(日内変動)。
食欲もなくなり、不眠になり、悲観的なことばかり考えてしまいます。躁うつ病のうつ状態では、不眠もありますが、過眠になることも多いです。
ひどい時は、ほとんど寝たきりになり、頭も動かず、生活ができなくなって入院することもあります(昏迷状態)。
少し体力がついてきても、気分は悪いので、「破産してお金がない」「恐ろしいことをした」などのネガティブな妄想が出て、自殺に結びつく場合もあります。

躁状態は起こったらどんどん進んで、治療をすれば一般に2~3ヶ月以内に治まることが多いです。
が、うつ状態は、治療していてもなかなか好転せず、半年以上続くこともあります。
躁状態、うつ状態は、一生のうち何度か繰り返すことが多いですが、一度だけの人もいます。
この繰り返しは、放っておくとだんだん間隔が短くなるので、主治医の指示通り予防薬(気分安定薬)を飲むことが大切です。

他の状態としては、躁からうつ、またはその逆になる時に、一時的に「躁うつ混合状態」になることがあります。
これは、気力がないのに体が動いてしまうなど、躁とうつの症状が混ざっていることです。
上記の分類法「DSM-IV」では、もう少し定義が狭く、「1型の躁とうつが混じっている状態」としていますが、実際の適応では、2型の軽躁とうつの混合もよく見られるため、臨床的には広く取ってそれも「混合状態」ということが多いです。

また、急速交代型(ラピッドサイクリング)という症状があり、これは、年に4回以上躁、うつ、混合状態を発症するものです。
年に4回以上といっても、躁+鬱×4回ではなく、躁、鬱、混合のどれかのエピソードを4回以上経験するという意味です。
躁うつ病者の5~20%、8割が女性、年齢的には30歳以上が多いという統計があります。
また、原因も、発病当時からラピッドだったもの、発病してから抗うつ薬などで躁転してなったものなど、さまざまな研究が進んでいます。
この場合、薬も、一般的な気分安定薬であるリーマスの他に、デパケンなど他の気分安定薬を併用したり、デパケン単独で使用した方が効果があるといわれています。

躁うつ病は、状態が安定した時には何の症状もなく、普通の人と変わりません。
安定すれば病気でない人とどこも変わりがない(必要なら予防薬を飲むくらい)というのが、この病気の特徴です。
安定した状態が続けば、「寛解(かんかい)」とみなされます。
「寛解」とはいわゆる「治癒」のことですが、薬を飲まなくなると再発することが多い(再発率95%)ため、「治癒」とは言いません。
しかし、再発予防のための最小限の薬を飲む程度で、普通の生活が送れます。

 

 

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